ヤコブ病に罹患する原因として、脳外科等の手術の際に、
ドイツBブラウン社のヒト死体乾燥硬膜製品「ライオデュラ」を移植された場合が問題となっています。

交通事故や病気で脳外科手術を行うときには、頭蓋骨を取って、その下にある
硬膜を切ります。手術が終わった後には、切った硬膜を元通りに縫いあわせなければなりませんが、そのまま縫うのではなく、バンソウコのような補填材料が必要になる場合があります。現在は、ゴアテックスが多く使われていますが、かつては、ヒトの死体から採取した同じ硬膜が使われていました。日本で多く使われていたのが、上記「ライオデュラ」でした。

ところが、日本でライオデュラの移植を受けた人から、
多くのヤコブ病が発生しているのです。2000年3月現在で、硬膜移植歴あるヤコブ病患者は67例に達しています。殆どは使用硬膜のメーカーが確認できていますが、全てBブラウン社の「ライオデュラ」です。これは、一般にヤコブ病が100万人に1人の病気であることと比べると、とてつもなく高い発症率なのです。

Bブラウン社の「ライオデュラ」が
ヤコブ病病原体に汚染されていたのです。




「ライオデュラ」というのは、ヒト死体組織を原材料とする製品です。当然、ヒト死体組織には、色々な病原体がひそんでいる可能性が高いのですから、そのような原材料で製品を作って利益をあげる企業としては、
安全対策は万全を期さなければなりません。

大きく分けて、以下の4つは最低限行うべきでした。
1 死体(ドナー)の選択をする 2 ドナーと製品との関係を管理する
硬膜を採取する前に、ドナーがどのような病気で死んだのか、過去の病歴はどうだったのかなどを医師がきちんと調べて、危険な病原体を持っている可能性のあるドナーは排除しなければなりません。 ライオデュラによる感染が疑われた場合、どの硬膜が汚染されていたのかを確認するためには、ドナーや製品にに関する情報がきちんと記録化されて
管理
されていなければなりません。

3 製造過程で個別処理を行う 4 滅菌を万全に行う
仮に病原体に汚染された硬膜があった場合に、その汚染が他の製品に広がらないように、ひとつひとつ個別に製品化しなければなりません。 ヒト死体組織を製品化して利益をあげる企業としては、動物実験をおこなうなどして滅菌方法の有効性をきちんと確認しておかなければなりません。

しかし、Bブラウン社は、このような義務をなにひとつ果たさず、
ずさんとしかいいようがない製造を続けてきました。
1 ドナー選択をしていませんでした 2 ドナー記録などもありませんでした
Bブラウン社は、行き倒れなども解剖するヨーロッパの法医学教室などからも硬膜を買っていました。社員が病院の裏口で、解剖アシスタントに賄賂を渡して病院に無断で硬膜を密買もしていました。 硬膜移植によるヤコブ病が問題になって、アメリカ当局が調査したところ、Bブラウン社では1987年4月以前のドナーについては記録がなく追跡できないことが分かりました。

3 個別処理をしていませんでした 4 滅菌が万全でありませんでした
Bブラウン社は、多くの硬膜を一緒に処理(プーリング処理)していました。 また、300人分の硬膜を1つのポリ袋で保管していたことも明らかになっています。 Bブラウン社はガンマ線滅菌法を採用していましたが、遅くとも1978年には、ガンマ線はヤコブ病病原体に効かないことが分かっていました。それにもかかわらず、Bブラウン社は1987年までガンマ線滅菌法による製品を売り続けていたのです。Bブラウン社は、ヤコブ病の感染性にガンマ線は効かないことは分かっていたのに、自ら実験して確かめようとすらしなかったのです。

しかも、Bブラウン社は、1987年、アメリカでの第一症例報告の後に、ライオデュラの滅菌法を変更し(水酸化ナトリウム処理工程を追加)したにもかかわらず、危険な以前の製品全部を回収するどころか、さらに2年にわたって売り続けたのです。
そして、1990年代になって、ドイツ国内でBブラウン社の死体硬膜密売が報道され、1996年、Bブラウン社は製造中止に追い込まれています。ちなみに、同じ年に、硬膜密売に関してBブラウン社の社員が刑事処罰を受けています。
このように、Bブラウン社のなりふりかまわず利益のみを追求する姿勢が、多くの汚染されたライオデュラを作り出し、
多くのヤコブ病被害者を発生させたことは間違いありません。




厚生省は、1973年に単なる書面審査でライオデュラの輸入を承認しました。それから、1997年の使用禁止までの間、硬膜移植によるヤコブ病伝達の危険性に関する多くの論文や報告があったにもかかわらず、
全く何の措置も取りませんでした。

1978年には、Bブラウン社が行っていたより大量のガンマ線でもヤコブ病病原体は滅菌できないという論文が発表されました。しかしここでも、厚生省は
使用停止措置を取りませんでした。輸入承認審査のときに、Bブラウン社がライオデュラ滅菌方法の一つとしてガンマ線滅菌を行うと申請していたのに、何の調査すら行わなかったのです。

更に、厚生省は1976年に専門家を集めてヤコブ病などの研究班を設置しました。研究班では、毎年報告書を発表しており、人体組織移植によるヤコブ病の危険をくり返し指摘していました。しかし、厚生省は、自ら研究班を設置しておきながら、これらの報告にも
何の対応もしませんでした。

もはや国は
責任を逃れようがありません。

ちなみに、1987年、硬膜移植後にヤコブ病を発症した第1号患者の報告論文が発表されました。アメリカでは、その年にライオデュラの使用が禁止されています。しかし、厚生省は、このときも
何もしませんでした。裁判では、アメリカのこの措置は当時知らなかったなどと主張しているのです。

1996年、Bブラウン社はライオデュラの製造を中止しました。必要な数の硬膜の確保が難しくなったから、というのが公式な理由です。

そして、市場からライオデュラがなくなった1997年になって、ようやく厚生省は、ヒト乾燥硬膜製品の使用禁止を発表したのです。

遅きに失したとしか言いようがありません。